労災保険受給者の解雇

  • 2015.06.09 Tuesday
  • 13:31
弁護士の村田です。

さて,本日の新聞に「労災受給者も解雇可能 専修大元職員訴訟 最高裁が初判断」と題する記事が載っていましたので,その紹介です。

新聞に載っていた情報によると,裁判で争われた事案は次のとおりです。
すなわち,専修大に勤めていた職員の男性(原告)は,2002年頃から,首や腕に痛みが生じる頸肩腕症候群だと診断され,2007年に労災認定を受けた後休職していましたが,その間労災保険の給付あるものの,専修大からの療養費の補償はなく,2011年に専修大からその男性に対して打切補償として約1630万円の支払いがなされて,そのまま男性が解雇されたという事案で,男性が解雇無効を求めて提訴したというものです。
一審,二審とも,「打ち切り補償の適用は雇用主から療養補償を受けている場合に限られ,労災保険の受給者は含まれない」として,解雇無効と判断していましたが,この度,最高裁では,「労災給付は,使用者による補償に代わる制度であり,使用者の義務はそれによって実質的に果たされている」と判断して,労災保険受給者でも解雇の対象となることを前提としたうえで,解雇に合理性があったかどうかをさらに審理するために,事件を東京高裁に差し戻した,というのが今回の事案の概要です。

さて,そもそも労災によって休養を余儀なくされた労働者を解雇することができるのか,という点からまずお話します。
これは,原則としてできません。労働基準法は,「使用者は,労働者が業務上負傷し,又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後三十日間」「は,解雇してはならない」(同法第19条1項本文)と定めており,労働者が労災によって怪我や病気を患って療養のために仕事を休んでいる間は解雇してはいけないことになっているからです。
ただし,これには例外があります。
それは,打切補償を支払った場合です。その場合には,労災による怪我や病気で療養のために休業している労働者でも,解雇の対象としてもよい旨法律で定められています(同条1項但書)。

では,打切補償とは何なのかについて説明します。
まず,使用者は,労働者が労災によって負傷した場合,必要な療養費を負担しなければなりません(同法75条1項)。仕事が原因で怪我をした以上,治療に必要な費用は会社が負担しなさいという当たり前のことを定めたものです。
しかしながら,いつまで経っても怪我が治らない場合,会社は仕事をすることができない労働者のためにずっと費用を負担し続けなければならないことになります。
そういった事態を回避するために,労働基準法は,「(療養のための)補償を受ける労働者が,療養後三年を経過しても負傷又は疾病がなおらない場合においては,使用者は,平均賃金の千二百日分の打切補償を行い,その後はこの法律の規定による補償を行わなくてもよい」(同法81条)と定めており,これを打切補償といいます。
したがって,労災によって負傷した労働者が,3年経っても怪我や病気が治らない場合,使用者は当該労働者に1200日分の給料相当の打切補償を支払うことで,以後は当該労働者を解雇の対象とすることを法律は認めている訳です。

それを踏まえて前記判例の事案を見ると,専修大は労災によって病気にかかった原告に対して,療養費の補償をしていませんでしたが,解雇する際に必要な打切補償の支払いはしていた,という事実関係にありました。この場合,法律は,解雇制限を解除させる打切補償をするには使用者が療養費の補償をしていることを前提とした規定となっていますので,専修大の行った打切補償は,療養費の補償がなかったという点において,解雇制限を解除させる打切補償ではなかったと考えられます。そのことを指摘したのが,一審と二審でした。
しかしながら,最高裁は,専修大が療養費を補償していなかったとしても,この男性には労災保険による労災給付がなされており,これが使用者による療養費補償の代わりになるものであることから,専修大が療養費の補償をしていなかったとしても,解雇制限を解除させる打切補償として認めることができ,当該労働者は解雇の対象となると判断した訳です。

この判断は最高裁で初めてなされたものですので,以後,同種事案で非常に大きな意味を持つことになりますが,大事なのは,仮に解雇制限を解除させる打切補償をしていたとしても,それはあくまで打切補償により当該労働者を解雇の対象とすることが許されるようになったというだけで,無条件で解雇することが許される訳ではないということです。
打切補償を支払ったとしても,その解雇に客観的合理的な理由がなく,社会的にも相当でない場合には解雇権権利濫用であるとして結局無効となりますので,その点はご注意ください。
いずれにせよ,労働者を解雇する際には法的に言っても細心の注意が必要となりますので,ご不安に思われた場合には,弁護士に相談に行くことをお勧めします。
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