中絶費用の負担

  • 2015.06.23 Tuesday
  • 11:12
弁護士の村田です。

さて,今日は少々重たいテーマではありますが,中絶費用の負担義務について話してみたいと思います。

男女が性交渉を持った場合に,望まれて子供が出来た場合には何の問題はないのでしょうが,時には予定外に子供が出来てしまうことが世の中にはままあります。
この場合,女性側としては,そのまま子供を産むのか,あるいは中絶するのかという非常に厳しい判断をしなくてはならないことになるでしょう。
特に,その男女が未婚のカップルだった場合には,よりシビアな判断となることが想定されます。
その際,色々な事情から子供を産むことはできないと判断した場合,中絶せざるを得ない状況になるのでしょうが,その中絶費用を誰が負担するのか,ということで問題になることがあります。

すなわち,中絶手術を受けるのは女性側ですので,たちまちは女性側が病院に中絶費用を支払わなければどうしたって中絶することはできません。
そこで,女性側としては当然相手の男性に中絶費用を負担してくれと請求することになりますが,ここで男性が中絶費用を負担することなく逃亡してしまうことも残念ながら現実としてはあり得る話です。
その場合,女性は男性に対して最終的に自分で支払った中絶費用も含む損害賠償請求をして回収するほかありません。
しかしながら,男性が支払う理由はないと拒否した場合,果たして裁判で争って認められるのでしょうか。

この点,従来は男性への損害賠償請求は認められないと考えられていました。
なぜなら,結果的に子供が出来てしまったとしても,女性側も子供ができてしまいかねない性交渉を持つことについては同意していた以上,男性の行為には何ら違法性がないと考えられるからです(女性が拒否していたにも関わらず男性が避妊しなかった場合は当然別です)。
しかしながら,場合によっては男性への損害賠償請求が認められるとした裁判例もあります。

東京地裁平成21年5月27日判決の裁判では,妊娠して中絶した女性が男性に対して中絶したことを理由とする慰謝料等の損害賠償請求をしたところ,その一部が判決で認められました。
この裁判例では,その理由として以下のように述べています。
すなわち,前提として,「共同して行った先行行為の結果,一方に心身の負担等の不利益が生ずる場合,他方は,その行為に基づく一方の不利益を軽減しあるいは解消するための行為を行うべき義務があり,その義務の不履行は不法行為法上の違法に該当するというべきである」とした上で,「本件性行為は,原告と被告が共同して行った行為であり,その結果である妊娠は,その後の出産又は中絶及びそれらの決断の点を含め,主として原告に精神的・身体的な苦痛や負担を与えるものであるから,被告はこれを軽減しあるいは解消するための行為を行うべき義務があった」にも関わらず,「被告はどうしたらよいか分からず,具体的な話し合いをしようとせず,原告に決定を委ねるのみであったのであって,その義務の履行には欠けるものがあった」と認定し,原告である女性に生じた損害の2分の1を賠償するよう認めました。

つまり,簡単に言えば,一緒に子供を作った以上,男性には,中絶する際に女性側に生じる不利益をできる限り軽減しなければならない義務が生じて,男性が女性からの相談に真摯に乗ることなく放置するようなことをした場合には当該義務違反を理由とする損害賠償責任を負うことになる,ということです。
そして,この地裁の判断は高裁でも維持されています(東京高裁平成21年10月15日判決)。
また,同趣旨の裁判例としては東京地裁平成24年5月16日判決があります。

このように,事案によっては損害賠償請求をすることが可能となる場合もありえますので,中絶費用の負担等でもめた場合には,弁護士にご相談に行くことをお勧めします。
 

DV被害に対する法的保護

  • 2015.06.11 Thursday
  • 13:10
弁護士の村田です。

先日,某有名元アイドルが夫から暴力を受けて,夫がDVで逮捕されたとのニュースを見ましたので,今日はDV被害について少しお話します。

さて,DVとは基本的には「配偶者からの暴力」(Domestic Violence)だと定義され,結婚相手から受ける暴力行為を広く含みます。そんなDV被害に対する法的保護について定めたものが「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律」,いわゆるDV防止法です。
この法律では,DV被害に遭った際の法的保護として,行政機関による保護について定めているのはもちろんのこと,配偶者からの暴力・脅迫を受けていた被害者が,さらに配偶者から暴力を受けることで生命・身体に重大な危害を受ける場合には,裁判所が保護命令を出すことができる旨定めています。
この保護命令とは,大きく分けて接近禁止命令と退去命令の二つに分けられて,前者は被害者に近づくことを禁止する命令,後者は同居している場合にその家から出ていくことを義務付ける命令のことを言います。
そして,この保護命令に相手が違反した場合には,1年以下の懲役又は100万円以下の罰金の刑罰が科せられることになるのです。

このようにして,DV防止法はDV被害からの法的保護を定めているのですが,この法律については,保護される範囲がどこまでなのか,という点についてもう少し説明する必要があります。
すなわち,離婚した相手からの暴力や,結婚はしていない内縁関係にある恋人からの暴力,さらには婚約者でもない恋人からの暴力などについてまで保護の対象としているのか,という点についてよく誤解されることがあるからです。

まず,離婚した元配偶者からの暴力についてですが,これはDV防止法の保護の対象となることがあります。
すなわち,DV防止法は,配偶者からDV被害に遭って,その後離婚したにも関わらず,引き続き相手方から暴力を受けている場合についても,保護の対象となる「配偶者からの暴力」に含めているからです(同法1条1項)。
ただ,ここで注意が必要なのは,保護の対象となるのが元配偶者から引き続き暴力を受けている場合に限定されているため,離婚するまでは暴力を受けたことはなかったにも関わらず,離婚後に元配偶者から暴力を受けるようになった場合については,DV防止法の保護の対象とはなっておりません。したがって,そのような場合には,DV防止法ではなくストーカー行為等規制法などの法律による保護を受けていく必要があります。

次に,内縁関係にある婚約者からの暴力についてですが,これもDV防止法の保護の対象となります。
すなわち,DV防止法は「配偶者」の定義として,婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者も含むとしているからです(同法1条2項)。
したがって,婚姻届を出していない内縁関係にある場合でも,相手方から暴力を受ければDV防止法の保護の対象となります。

では最後に,婚約者ですらない恋人からの暴力,いわゆるデートDVについてまで保護の対象となっているのでしょうか。
これは,原則としてDV防止法の保護の対象とはなりません。
DVの言葉のとおり,基本的には配偶者からの暴力行為を前提とした法律になっているからです。
しかしながら,デートDVであっても例外的に保護の対象となることがあります。
それは,その交際が「生活の本拠を共にする交際」であり,かつ,その共同生活が「婚姻関係における共同生活に類する共同生活」である場合です。
すなわち,結婚の意思は有していないが(つまり内縁ではない場合),結婚生活とほぼ同様の形で交際相手と同棲している場合には,その交際相手から受けた暴力行為もDV防止法の保護の対象となります(同法28条の2)。
言い換えれば,同棲していない恋人からの暴力や,同棲しているけども,恋人ではなく単なるルームシェアだったりする場合には,保護の対象からは外れることになります。

以上のことを簡単にまとめると,
配偶者○(全面的に保護)
内縁○(全面的に保護)
離婚後△(保護されることがある)
恋人△(保護されることがある)
ということになります。

したがって,配偶者からのDVはもちろんのこと,恋人から暴力を受けた場合でも,一人で解決しようとするのではなく,行政機関や警察,弁護士などの専門機関に相談に行って法的に対処することが可能かどうか検討されることをお勧めします。

 

労災保険受給者の解雇

  • 2015.06.09 Tuesday
  • 13:31
弁護士の村田です。

さて,本日の新聞に「労災受給者も解雇可能 専修大元職員訴訟 最高裁が初判断」と題する記事が載っていましたので,その紹介です。

新聞に載っていた情報によると,裁判で争われた事案は次のとおりです。
すなわち,専修大に勤めていた職員の男性(原告)は,2002年頃から,首や腕に痛みが生じる頸肩腕症候群だと診断され,2007年に労災認定を受けた後休職していましたが,その間労災保険の給付あるものの,専修大からの療養費の補償はなく,2011年に専修大からその男性に対して打切補償として約1630万円の支払いがなされて,そのまま男性が解雇されたという事案で,男性が解雇無効を求めて提訴したというものです。
一審,二審とも,「打ち切り補償の適用は雇用主から療養補償を受けている場合に限られ,労災保険の受給者は含まれない」として,解雇無効と判断していましたが,この度,最高裁では,「労災給付は,使用者による補償に代わる制度であり,使用者の義務はそれによって実質的に果たされている」と判断して,労災保険受給者でも解雇の対象となることを前提としたうえで,解雇に合理性があったかどうかをさらに審理するために,事件を東京高裁に差し戻した,というのが今回の事案の概要です。

さて,そもそも労災によって休養を余儀なくされた労働者を解雇することができるのか,という点からまずお話します。
これは,原則としてできません。労働基準法は,「使用者は,労働者が業務上負傷し,又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後三十日間」「は,解雇してはならない」(同法第19条1項本文)と定めており,労働者が労災によって怪我や病気を患って療養のために仕事を休んでいる間は解雇してはいけないことになっているからです。
ただし,これには例外があります。
それは,打切補償を支払った場合です。その場合には,労災による怪我や病気で療養のために休業している労働者でも,解雇の対象としてもよい旨法律で定められています(同条1項但書)。

では,打切補償とは何なのかについて説明します。
まず,使用者は,労働者が労災によって負傷した場合,必要な療養費を負担しなければなりません(同法75条1項)。仕事が原因で怪我をした以上,治療に必要な費用は会社が負担しなさいという当たり前のことを定めたものです。
しかしながら,いつまで経っても怪我が治らない場合,会社は仕事をすることができない労働者のためにずっと費用を負担し続けなければならないことになります。
そういった事態を回避するために,労働基準法は,「(療養のための)補償を受ける労働者が,療養後三年を経過しても負傷又は疾病がなおらない場合においては,使用者は,平均賃金の千二百日分の打切補償を行い,その後はこの法律の規定による補償を行わなくてもよい」(同法81条)と定めており,これを打切補償といいます。
したがって,労災によって負傷した労働者が,3年経っても怪我や病気が治らない場合,使用者は当該労働者に1200日分の給料相当の打切補償を支払うことで,以後は当該労働者を解雇の対象とすることを法律は認めている訳です。

それを踏まえて前記判例の事案を見ると,専修大は労災によって病気にかかった原告に対して,療養費の補償をしていませんでしたが,解雇する際に必要な打切補償の支払いはしていた,という事実関係にありました。この場合,法律は,解雇制限を解除させる打切補償をするには使用者が療養費の補償をしていることを前提とした規定となっていますので,専修大の行った打切補償は,療養費の補償がなかったという点において,解雇制限を解除させる打切補償ではなかったと考えられます。そのことを指摘したのが,一審と二審でした。
しかしながら,最高裁は,専修大が療養費を補償していなかったとしても,この男性には労災保険による労災給付がなされており,これが使用者による療養費補償の代わりになるものであることから,専修大が療養費の補償をしていなかったとしても,解雇制限を解除させる打切補償として認めることができ,当該労働者は解雇の対象となると判断した訳です。

この判断は最高裁で初めてなされたものですので,以後,同種事案で非常に大きな意味を持つことになりますが,大事なのは,仮に解雇制限を解除させる打切補償をしていたとしても,それはあくまで打切補償により当該労働者を解雇の対象とすることが許されるようになったというだけで,無条件で解雇することが許される訳ではないということです。
打切補償を支払ったとしても,その解雇に客観的合理的な理由がなく,社会的にも相当でない場合には解雇権権利濫用であるとして結局無効となりますので,その点はご注意ください。
いずれにせよ,労働者を解雇する際には法的に言っても細心の注意が必要となりますので,ご不安に思われた場合には,弁護士に相談に行くことをお勧めします。

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