刑事事件と責任能力
- 2015.11.09 Monday
- 12:16
弁護士の村田です。
さて,弁護士が刑事裁判で非難される要素の一つに,責任能力の問題があります。
よく,テレビのニュースなどで,殺人事件等の重大な事件の際に,弁護人が「被告人は心神喪失状態にあったことから無罪である」との主張をしたことに対して,「実際に人が殺されているのに犯人が無罪になるのはおかしいんじゃないのか!」と憤る方がいらっしゃいます。そして,裁判の場でそのような主張をする弁護人も「けしからん弁護士だ。被害者のことをどう考えているのか!」と思われることも多くあるかもしれません。
しかしながら,日本の刑事裁判では,実際に被告人が心神喪失状態にあった場合,無罪とすべきルールが法律によって定められています。
刑法39条1項に「心神喪失者の行為は,罰しない」と規定されており,心神喪失時に行った犯罪行為について刑罰を加えることができないことになっているのです。
そして,弁護士は職務上義務として,最善弁護義務というものを課せられています。
これは,弁護士は,刑事事件の際,被疑者及び被告人にとって最善の結果となるよう弁護活動をしなくてはならない義務のことを言います(なお,ここでいう「最善」がどういう意味を持つのかについては昔から多くの議論があるところです)。
したがって,自身が担当している被告人に,心神喪失の疑いがある場合には,上記最善弁護義務の観点から言っても,弁護士は裁判で心神喪失の主張をしなくてはならない訳です(逆にしなかった場合は職務怠慢になるでしょう)。
以上の経緯から,被害者等からすれば噴飯ものの主張なのかもしれませんが,弁護士が刑事裁判の場で心神喪失等の主張をして,被告人の刑事責任能力を争うことは,少なくとも業界的には別段おかしな話ではないということになります。
では,実際にどのように争っていくことになるのでしょうか。
まず,そもそも裁判で心身喪失が疑われそうな被疑者というのは,起訴前の捜査段階で,検察官が請求して精神科医による簡単な精神鑑定を受けていることが一般的です。
これを簡易鑑定といい,精神科医の先生が事件に関する捜査記録や被疑者の診療記録などを読んだ上で,被疑者と数時間面談して,被疑者に刑事責任能力があったかどうかを判断することになります。
この段階で,刑事責任能力がなかった可能性が高いとの鑑定結果が出た場合,検察官はおそらくその被疑者を起訴することなく医療観察法に基づく強制入院等の手続をとっていくことになるでしょう。
一方で,簡易鑑定にて刑事責任能力に問題なしとの鑑定結果が出た場合,恐らくそのまま起訴されることになります。
そこで,弁護人としては,検察官からその簡易鑑定に関する鑑定書の開示を受けた上で,当該鑑定書を裁判で覆すことができるかどうかを検討していくことになります(簡易鑑定は比較的短い期間で鑑定をするため,その正確性は慎重に確かめる必要があります)。
場合によっては,簡易鑑定を実施した先生にアポをとって,実際に会いに行って話を聞くことも検討すべきでしょう。
そして,その上で,やはり裁判の場では責任能力を争う必要があると判断した場合には,裁判所に正式な精神鑑定の請求をしていくことになります。
これが,よくテレビのニュースなどで出てくる精神鑑定請求というやつですね。
もちろん,当該請求が必ずしも認められるとは限りません。
簡易鑑定が既に行われており,それで十分だと判断された場合,弁護人からの精神鑑定請求は却下されることになります。
一方で,簡易鑑定では不十分であり,正式な鑑定をすべきである判断された場合には,正式な責任鑑定が実施されることになります。
その場合には,病院に1か月程度入院させた上で,長い時間をかけてじっくり精神鑑定をすることがあります。
しかしながら,正式な精神鑑定をしたからと言って,簡易鑑定と違う結果が出る保証はありません。
せっかく正式な精神鑑定をしたのに,やっぱり責任能力には問題がないという鑑定結果が出てくることも十分ありえます。
そうなった場合には,裁判に当該鑑定を行った先生を証人として呼んで,なぜそのような鑑定結果になったのか,どこか判断にミスはなかったのか尋問して聞くことを検討しなくてはならないでしょう。
以上のような手続を踏んだ上で,最終的に裁判所が被告人の責任能力に問題があったのかどうかの判断をすることになります。
さて,長々と刑事裁判における責任能力について話をしましたが,裁判の場で責任能力の主張をする際に,よく被告人から「ダメならダメでいいけども,きちんと裁判の場で自分の病気のことについて判断してもらいたい」という話を受けることがあります。
その病気は統合失調症だったり,アルコール依存症だったりする訳ですが,本人たちも,日常生活においてその病気に苦しめられてきたにも関わらず,1時間程度の問診で終わってしまう簡易鑑定で簡単に「あなたの病気と事件のことは無関係ですよ」と言われても納得できないところ多くあるということなのでしょう。
そして,正式な精神鑑定をした上で結果的に判決にて「あなたは正常ですよ」と言われたのだとしても,裁判の場で責任能力の主張をせずに不満が残る状態で有罪判決を受けるよりかは,本人たちが納得しやすいという意味でも今後の更生に良い影響を与えるのではないかな,などと思ったりすることもあります。
さて,弁護士が刑事裁判で非難される要素の一つに,責任能力の問題があります。
よく,テレビのニュースなどで,殺人事件等の重大な事件の際に,弁護人が「被告人は心神喪失状態にあったことから無罪である」との主張をしたことに対して,「実際に人が殺されているのに犯人が無罪になるのはおかしいんじゃないのか!」と憤る方がいらっしゃいます。そして,裁判の場でそのような主張をする弁護人も「けしからん弁護士だ。被害者のことをどう考えているのか!」と思われることも多くあるかもしれません。
しかしながら,日本の刑事裁判では,実際に被告人が心神喪失状態にあった場合,無罪とすべきルールが法律によって定められています。
刑法39条1項に「心神喪失者の行為は,罰しない」と規定されており,心神喪失時に行った犯罪行為について刑罰を加えることができないことになっているのです。
そして,弁護士は職務上義務として,最善弁護義務というものを課せられています。
これは,弁護士は,刑事事件の際,被疑者及び被告人にとって最善の結果となるよう弁護活動をしなくてはならない義務のことを言います(なお,ここでいう「最善」がどういう意味を持つのかについては昔から多くの議論があるところです)。
したがって,自身が担当している被告人に,心神喪失の疑いがある場合には,上記最善弁護義務の観点から言っても,弁護士は裁判で心神喪失の主張をしなくてはならない訳です(逆にしなかった場合は職務怠慢になるでしょう)。
以上の経緯から,被害者等からすれば噴飯ものの主張なのかもしれませんが,弁護士が刑事裁判の場で心神喪失等の主張をして,被告人の刑事責任能力を争うことは,少なくとも業界的には別段おかしな話ではないということになります。
では,実際にどのように争っていくことになるのでしょうか。
まず,そもそも裁判で心身喪失が疑われそうな被疑者というのは,起訴前の捜査段階で,検察官が請求して精神科医による簡単な精神鑑定を受けていることが一般的です。
これを簡易鑑定といい,精神科医の先生が事件に関する捜査記録や被疑者の診療記録などを読んだ上で,被疑者と数時間面談して,被疑者に刑事責任能力があったかどうかを判断することになります。
この段階で,刑事責任能力がなかった可能性が高いとの鑑定結果が出た場合,検察官はおそらくその被疑者を起訴することなく医療観察法に基づく強制入院等の手続をとっていくことになるでしょう。
一方で,簡易鑑定にて刑事責任能力に問題なしとの鑑定結果が出た場合,恐らくそのまま起訴されることになります。
そこで,弁護人としては,検察官からその簡易鑑定に関する鑑定書の開示を受けた上で,当該鑑定書を裁判で覆すことができるかどうかを検討していくことになります(簡易鑑定は比較的短い期間で鑑定をするため,その正確性は慎重に確かめる必要があります)。
場合によっては,簡易鑑定を実施した先生にアポをとって,実際に会いに行って話を聞くことも検討すべきでしょう。
そして,その上で,やはり裁判の場では責任能力を争う必要があると判断した場合には,裁判所に正式な精神鑑定の請求をしていくことになります。
これが,よくテレビのニュースなどで出てくる精神鑑定請求というやつですね。
もちろん,当該請求が必ずしも認められるとは限りません。
簡易鑑定が既に行われており,それで十分だと判断された場合,弁護人からの精神鑑定請求は却下されることになります。
一方で,簡易鑑定では不十分であり,正式な鑑定をすべきである判断された場合には,正式な責任鑑定が実施されることになります。
その場合には,病院に1か月程度入院させた上で,長い時間をかけてじっくり精神鑑定をすることがあります。
しかしながら,正式な精神鑑定をしたからと言って,簡易鑑定と違う結果が出る保証はありません。
せっかく正式な精神鑑定をしたのに,やっぱり責任能力には問題がないという鑑定結果が出てくることも十分ありえます。
そうなった場合には,裁判に当該鑑定を行った先生を証人として呼んで,なぜそのような鑑定結果になったのか,どこか判断にミスはなかったのか尋問して聞くことを検討しなくてはならないでしょう。
以上のような手続を踏んだ上で,最終的に裁判所が被告人の責任能力に問題があったのかどうかの判断をすることになります。
さて,長々と刑事裁判における責任能力について話をしましたが,裁判の場で責任能力の主張をする際に,よく被告人から「ダメならダメでいいけども,きちんと裁判の場で自分の病気のことについて判断してもらいたい」という話を受けることがあります。
その病気は統合失調症だったり,アルコール依存症だったりする訳ですが,本人たちも,日常生活においてその病気に苦しめられてきたにも関わらず,1時間程度の問診で終わってしまう簡易鑑定で簡単に「あなたの病気と事件のことは無関係ですよ」と言われても納得できないところ多くあるということなのでしょう。
そして,正式な精神鑑定をした上で結果的に判決にて「あなたは正常ですよ」と言われたのだとしても,裁判の場で責任能力の主張をせずに不満が残る状態で有罪判決を受けるよりかは,本人たちが納得しやすいという意味でも今後の更生に良い影響を与えるのではないかな,などと思ったりすることもあります。