最善弁護義務
- 2016.05.30 Monday
- 12:12
弁護士の村田です。
さて,巷では「99.9」というタイトルの弁護士ドラマが放映されているようですが,それに因んで今日は刑事弁護のお話を少し。
弁護士に対するよくある誤解の一つに,「弁護士はお金のために犯罪者の味方をしている悪い奴だ!」というものがあります。
誰がどう見ても有罪だろうという案件で無罪を争ったりすることがあるので,こういった印象を持たれてしまうのかもしれません。
ある意味では,それは当たっているところもあります。
例えば,ヤクザの私選弁護をしたりしている場合,ヤクザからお金を直接もらって裁判の弁護をする訳で,「お金をもらって犯罪者の味方をしている」と言われれば,仕方のないことかもしれません。
ただし,弁護士というのは裁判官や検察官と違って私人として事業を行っている事業主ですので,依頼者からお金をもらわないと自分の生計が立てられません。したがって,仕事としてやっているんだ,という面をまず理解してもらわないといけません。
次に,自らが望まなくても刑事弁護をしなくてはならない場面もある,という点も理解してもらう必要があります。
すなわち,国選弁護人です。
国選制度の説明は以前もしましたが,被疑者(被告人)が弁護士を希望するとの要望を出した場合,弁護士会にある名簿の中から順番に弁護人が選任されるというもので,これは裁判所が担当する弁護士を選任しますので,原則として弁護士の方は自由に辞められませんし,被疑者(被告人)も自由に弁護人を解任することはできません。
それを認めてしまうと,被疑者(被告人)に自由に弁護士を選ぶ権利を事実上認めてしまうことになるからです(裁判所は弁護士を斡旋する場所ではないのです)。
したがって,国選弁護人に選任された弁護士が,被疑者(被告人)と面会した際,「何という極悪人なんだ!」と内心思ったとしても,それを覆い隠して,その人の弁護をしなくてはならないのです。
むしろ,しなかった場合,その弁護士は懲戒請求をされてしまう可能性すらあります。
なぜか。
弁護士には,刑事弁護において「最善弁護義務」が課せられているからです。
すなわち,弁護士の職務上の行為規範を規律する「弁護士職務基本規程」第46条において,こう規定されています。
「弁護士は,被疑者及び被告人の防御権が保障されていることにかんがみ,その権利及び利益を擁護するため,最善の弁護活動に努める。」
例えどんな極悪人だろうと,公平かつ適正な裁判を受ける権利が憲法上保障されています(憲法第32条)。
そして,公平かつ適正な裁判を実現するためには,被告人を弁護する弁護人を付けて裁判を行うというのが近代刑事訴訟制度の大原則です。
かかる大原則を実現するために,弁護士には上記のような「最善弁護義務」が課せられているのです。
したがって,弁護人が「こんな極悪人の弁護なんかしてられるか!」と弁護活動を放棄してしまった場合,上記最善弁護義務に違反したとして,懲戒を受けてしまい,最悪,弁護士として働けなくなってしまう可能性すらあるのです。
そういった理由から,弁護士は,社会の目から見たら極悪人のような被告人であっても,弁護人として寄り添い,弁護活動をしているのです。
では最後に,弁護士であっても,どのような弁護活動をすればいいのか悩む事案について紹介したいと思います。
弁護士には刑事弁護において最善弁護義務が課せられていることは既に紹介しましたが,よく教室事例で一体何が最善弁護義務なのか悩む場面があります。
典型的なのは,例えば次のような場合です。
殺人事件で,逮捕されて起訴された被告人は,「人違いだ!殺したのは俺じゃない!」と否認している。弁護人も,当然被告人の言い分に沿って無罪を争っているところ,ある日,被告人から,「裁判では否認しているけど,実は本当は俺が犯人なんです。でも自白しちゃうと最悪死刑になってしまうので,先生には裁判で無罪を争ってほしいです。」と告げられてしまった。
このような場合,弁護士としてはどうしたら良いのでしょうか。
非常に悩ましい問題です。
正義に則って行動するのであれば,被告人が犯人であると自白しているにも関わらず,無罪を争って無罪を勝ち取ってしまった場合,人を殺した殺人犯を世に放つことになってしまいますので,裁判では無罪を争わず,有罪を前提の情状弁護をすべきである,とも考えられます。
実際に,「弁護士職務基本規程」にも,第1条に「弁護士は,その使命が基本的人権の擁護と社会正義の実現にあることを自覚し,その使命の達成に努める。」と規定され,第5条に「弁護士は,真実を尊重し,信義に従い,誠実かつ公正に職務を行うものとする。」と規定されていますので,真実を尊重し,社会正義を実現するためには,被告人の要望に反してでも裁判で無罪を争うべきではないという考え方です。
一方で,上記しましたように,弁護士には「最善弁護義務」が課せられていますので,被告人が無罪を争って欲しいと要望しているのに,それに反して有罪前提の弁護活動をしてしまうと,最善弁護をしたことにはならないのではないかという疑問があります。
また,弁護士には守秘義務も課せられていますので,被告人が弁護士を信頼して自らの犯罪事実を告げたのに,それをペラペラと外部に漏らしてしまうと,守秘義務にも違反することにもなります。
このように,上記のような場面に立った場合,弁護士は相反する義務に挟まれてしまうことになりますので,どのように行動するのが正解か,非常に悩むことになってしまうのです。
そして,この問題に確固たる正解というものは今のところありません。
幸いにして私は上記のような場面に出会ったことはありません。
が,いずれ出会わないとも限りません。
その時のことを想定して,どうすればいいのかを考えておく必要があります。
皆さんであれば,どうしますか?
さて,巷では「99.9」というタイトルの弁護士ドラマが放映されているようですが,それに因んで今日は刑事弁護のお話を少し。
弁護士に対するよくある誤解の一つに,「弁護士はお金のために犯罪者の味方をしている悪い奴だ!」というものがあります。
誰がどう見ても有罪だろうという案件で無罪を争ったりすることがあるので,こういった印象を持たれてしまうのかもしれません。
ある意味では,それは当たっているところもあります。
例えば,ヤクザの私選弁護をしたりしている場合,ヤクザからお金を直接もらって裁判の弁護をする訳で,「お金をもらって犯罪者の味方をしている」と言われれば,仕方のないことかもしれません。
ただし,弁護士というのは裁判官や検察官と違って私人として事業を行っている事業主ですので,依頼者からお金をもらわないと自分の生計が立てられません。したがって,仕事としてやっているんだ,という面をまず理解してもらわないといけません。
次に,自らが望まなくても刑事弁護をしなくてはならない場面もある,という点も理解してもらう必要があります。
すなわち,国選弁護人です。
国選制度の説明は以前もしましたが,被疑者(被告人)が弁護士を希望するとの要望を出した場合,弁護士会にある名簿の中から順番に弁護人が選任されるというもので,これは裁判所が担当する弁護士を選任しますので,原則として弁護士の方は自由に辞められませんし,被疑者(被告人)も自由に弁護人を解任することはできません。
それを認めてしまうと,被疑者(被告人)に自由に弁護士を選ぶ権利を事実上認めてしまうことになるからです(裁判所は弁護士を斡旋する場所ではないのです)。
したがって,国選弁護人に選任された弁護士が,被疑者(被告人)と面会した際,「何という極悪人なんだ!」と内心思ったとしても,それを覆い隠して,その人の弁護をしなくてはならないのです。
むしろ,しなかった場合,その弁護士は懲戒請求をされてしまう可能性すらあります。
なぜか。
弁護士には,刑事弁護において「最善弁護義務」が課せられているからです。
すなわち,弁護士の職務上の行為規範を規律する「弁護士職務基本規程」第46条において,こう規定されています。
「弁護士は,被疑者及び被告人の防御権が保障されていることにかんがみ,その権利及び利益を擁護するため,最善の弁護活動に努める。」
例えどんな極悪人だろうと,公平かつ適正な裁判を受ける権利が憲法上保障されています(憲法第32条)。
そして,公平かつ適正な裁判を実現するためには,被告人を弁護する弁護人を付けて裁判を行うというのが近代刑事訴訟制度の大原則です。
かかる大原則を実現するために,弁護士には上記のような「最善弁護義務」が課せられているのです。
したがって,弁護人が「こんな極悪人の弁護なんかしてられるか!」と弁護活動を放棄してしまった場合,上記最善弁護義務に違反したとして,懲戒を受けてしまい,最悪,弁護士として働けなくなってしまう可能性すらあるのです。
そういった理由から,弁護士は,社会の目から見たら極悪人のような被告人であっても,弁護人として寄り添い,弁護活動をしているのです。
では最後に,弁護士であっても,どのような弁護活動をすればいいのか悩む事案について紹介したいと思います。
弁護士には刑事弁護において最善弁護義務が課せられていることは既に紹介しましたが,よく教室事例で一体何が最善弁護義務なのか悩む場面があります。
典型的なのは,例えば次のような場合です。
殺人事件で,逮捕されて起訴された被告人は,「人違いだ!殺したのは俺じゃない!」と否認している。弁護人も,当然被告人の言い分に沿って無罪を争っているところ,ある日,被告人から,「裁判では否認しているけど,実は本当は俺が犯人なんです。でも自白しちゃうと最悪死刑になってしまうので,先生には裁判で無罪を争ってほしいです。」と告げられてしまった。
このような場合,弁護士としてはどうしたら良いのでしょうか。
非常に悩ましい問題です。
正義に則って行動するのであれば,被告人が犯人であると自白しているにも関わらず,無罪を争って無罪を勝ち取ってしまった場合,人を殺した殺人犯を世に放つことになってしまいますので,裁判では無罪を争わず,有罪を前提の情状弁護をすべきである,とも考えられます。
実際に,「弁護士職務基本規程」にも,第1条に「弁護士は,その使命が基本的人権の擁護と社会正義の実現にあることを自覚し,その使命の達成に努める。」と規定され,第5条に「弁護士は,真実を尊重し,信義に従い,誠実かつ公正に職務を行うものとする。」と規定されていますので,真実を尊重し,社会正義を実現するためには,被告人の要望に反してでも裁判で無罪を争うべきではないという考え方です。
一方で,上記しましたように,弁護士には「最善弁護義務」が課せられていますので,被告人が無罪を争って欲しいと要望しているのに,それに反して有罪前提の弁護活動をしてしまうと,最善弁護をしたことにはならないのではないかという疑問があります。
また,弁護士には守秘義務も課せられていますので,被告人が弁護士を信頼して自らの犯罪事実を告げたのに,それをペラペラと外部に漏らしてしまうと,守秘義務にも違反することにもなります。
このように,上記のような場面に立った場合,弁護士は相反する義務に挟まれてしまうことになりますので,どのように行動するのが正解か,非常に悩むことになってしまうのです。
そして,この問題に確固たる正解というものは今のところありません。
幸いにして私は上記のような場面に出会ったことはありません。
が,いずれ出会わないとも限りません。
その時のことを想定して,どうすればいいのかを考えておく必要があります。
皆さんであれば,どうしますか?